「はっ!!!!ハイ!!!海馬様!!!」
即座にボタンを押すと、それきり磯野は黙っていた。
(コレで機嫌を損なわれでもしたら・・何されるか・・・)
内心ヒヤヒヤであった・・・。
程なくして、指定した階に着いた事をエレベーターが知らせる。
音も静かに開くドアをくぐりながら、磯野には振り向かずに言い放った。
「遊戯を部屋に連れて行っている間、お前は会議室にいる馬鹿どもに先ほどの事を伝えておけ。」
ドアが閉まる中、磯野は海馬に頭を下げながら思った。
(・・・十分間だけですって・・?・・・そ・んな御無体な・・・)
遊戯を胸に抱いたまま社長室に入ると、気持ちの良い午前の眩しいまでの光が部屋の中を満たしていた。
その光を少し遮る為、ドアの近くに数個有る中の一つのボタンを押す。
するとこの部屋の全ての窓ガラスが瞬時にすりガラスのように変わった。
(これで多少は眩しくは無いだろう・・・。)
周りを見てベッド代わりになるものと言えば、ここには来客用に置いてあるソファーしかない・・・。
「少しの間、これで我慢していろ・・・・。」
そう言いながら、腕の中の温もりをそっと横たえると、学ラン姿で会議に出るわけにも行かず、上着を脱ぎながら自分のデスクに近づいた。
Yシャツの襟を立たせながら、昨日から椅子にかけっぱなしになっていたブルーのネクタイを自分の首にかけると、かわりとばかりに学ランを椅子へと投げかける。
白いシャツの上から仕立ての良い濃紺のベスト無造作に羽織ると、前のボタンを留めながら遊戯に近づいた・・・。
ソファーの手掛け部分に軽く腰掛け、上から少し遊戯を覗き込む。
ネクタイが眠る遊戯の顔に触れそうになる・・・。
そのネクタイを手で掴み、慣れた手つきで結んで襟を正すと、眠ったままの遊戯の頬にそっと指で触れた。
指先に冷たく感じる、まだ消えない涙の跡が痛々しい・・・。
(・・・・・・遊戯。)
遊戯に飲ませたのは、無理してでも眠りたいときに使用している自分用の強い睡眠薬だ・・・。
多少のことではそう簡単には起きないだろう。
海馬は遊戯に覆い被さるかの様に、その涙の跡に口付け、聞こえてはいないだろう耳元で囁いた。
「・・・行って来る。」
その場から踵を返し、自分のデスクの上に置いてあるバインダーを手に取り、足早に会議室へと向かう。
自分が遊戯にしている行為は一体何なのかを、ホンの少し認めながら・・・。
会議室はザワザワとしていた。
時間になっても一向に始まる気配を見せない会議。
なにしろ会議の鍵を握る人物がその場にいないのだ・・・・。
「海馬君はまだかね!!!何をしとるんだ一体!!!」
「こちらも少ない時間をさいてまでこの場にいるんだ!!!」
「早く彼を呼んできてくれたまえ!!!」
あちらこちらで、各社代表の怒号が聞こえる中、磯野はただひたすら平謝りしていた。
怒りを露にする気持ちは、判らないでもないが・・・。
(海馬様・・・・お早くっ!!!)
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