童実野町の一等地にある海馬ランド。
そこにモクバは突然連れて行かれた。
授業中にもかかわらずに、問答無用で引きずり出されて…。
…兄の代理で…。
普段はこんな事無く、…いや、全く無いと言った方が良いだろう。
兄は何事においても、自分の目で確かめなければ気が済まないのだ。
まぁ、自分もそうなのだが…。
その兄が今日の視察をキャンセルするぐらいの、緊急事態…。
(何かが起きたんだな…。)
その『何か』が解らないが…。
余程の事だったのだろうと、ある程度は推測は出来る。
それがどれ程の事か判らないのが、気になるのは確かで…。
(何かあれば、連絡が入る筈だ。)
自分の思った事に少し心細くなり、無意識的に胸元のロケットペンダントをぎゅっと握り締める。
(心配だよ…。どうしたんだよ、兄サマ…。)
しかし、そんな心配事よりも、今は視察を優先せねばならない。
これが終わったら連絡してみようと考えて、気持ちを切り替えた。
(生半可な気持ちで視察したら、兄サマや、スタッフ達にも失礼だからな!)
自分はココに不在の『海馬コーポレーション社長代理』で来ているのだから。
そう思うと顔つきが、小学生の彼から会社の役職者としての風格を伴った表情へと変わった。
己がいくら幼かろうが、自分の肩には海馬コーポレーションの社員の重積や信頼がかかっている。
いいかげんな気持ちでは、やって行けないのだから。
幾度も足を運んでいるこの道を歩きながら、そう思った。
暫く歩くと、大きな敷地に完成されたドームが見えた。
実物になってから、設計図や模型では解らないものがある…。
「モクバさん、これが今回初お目見えになるアトラクション『複数対戦型デュエルドーム』です。」
(兄様とオレが考えて作ったアトラクション…)
外観を見てその大きさに少し驚いた。
「結構、大きな物になったんだなぁ…」
自分の想像よりも遥かに大きな、「スタジアム」と言っても良い程の大きさを伴うソレ。
兄の駆使する、白きあのドラゴンを彷彿とさせるそのドームの姿は、とても流麗で…。
(兄様が見たら、きっと喜ぶだろうな…。)
このスタジアムは、遊戯と兄と自分とが一緒に対戦したくて、その為に作ったようなものである。
ドームの中に入ると、まずエントランスに案内された。
収容人数の増減による観客席の稼動、その他の目的にも使用できるか、
「中へ入られるようにはなっておりますが、まだ、改装中です。…どうされますか?」
う〜んと、悩む。
どうせなら、出来あがった状態のものを、兄と遊戯に見せたい。
自分も一緒に。
そして、ふと心の奥で思った…。
(…もう一人の遊戯にも、見て欲しかったな…。)
エントランスから中に続くドアを見つめる。
「…いい。次回の完成時点での視察で中を見させてもらうよ。」
「そうですか…。」
ちょっとガックリ来ている営業のにいちゃん。
(ご免な…。)
悪いとは思いながら、今回は自分の思う通りに行動する事にした。
「ありがとう、短期でココまで形にしてもらって。本当に仕事を依頼した甲斐があった。社長も喜ぶと思う。」
少し肩を落とした彼に、そっと言う。
「次は、社長と一緒に来るよ。完成を楽しみにしてるぜ!」
モクバの言葉に、気を取り直した様だった。
「…はっ…ハイ!!!必ず最高のモノにして見せます!!!!!!」
元気の良い返事に、モクバも嬉しくなった。
「おう!頼んだゼィ!!」
年上の営業のにいちゃんは、次の用件があるとかで、急いでその場を去っていった。
さて。視察を終えた事だし…。
「…オレも、兄サマに報告しなきゃ…。」
モクバは携帯を取り出し、アドレスから兄の携帯番号を引き出した。
「何が起きてるんだろう…。」
オレの知らない所で…。
とりあえず不安を拭い去って、コールボタンを押しす。
2回、3回と、コール中の電子音が、いつに無く長く感じる。
(早く…繋がってくれ!!!)
イライラする気持ちを押さえきれない。
(兄サマ!!!!!!!)
拭いきれない不安を抱えたままコールし続ける…。
(一体どうしたんだ?!)
常ならば2・3回のコールで出るのに…。
(おかしい!!!)
直ぐ後ろで控えていた秘書に振り向いて、指示する。
「直ぐに本社に戻る!!!ヘリの用意をしてくれ!!!」
「か・かしこまりました…!」
ただ事で無いモクバの言葉に秘書も慌てるようにして答え、携帯で本社に連絡をつけている。
(どうしたんだよ!兄サマ!)
心の中の不安が、一気に掻き立てられる…。
「…兄サマ。」
何かに、操られるようにペンダントを、強く握りしめた…。
Next Page⇒
2004.5/12.19:50.pm
「白い心 7」
…あぁ、なんか中途半端に終わってしまった感じ…汗。
しかし、医者はいつ出る…泣。
戻る
白い心 7