会議室から飛び出すようにして社長室へと向かう中、海馬は考えていた。
何故、闇の遊戯が消えたのかを…。
(モクバの情報が正しければ、遊戯は二人で戦っていたと言うが…。)
にわかには信じられるものではない。
そもそも千年アイテムとか、三千年前の記憶だとか…。
それら総てが、自分にとって胡散臭く感じる。
(しかもそのオカルトアイテム中の一つはオレが所持者だったと…?)
「そんな馬鹿げた話しがあるか!」
ふんと、鼻で笑う。
そんな過去の話しなぞ、今押しつけられてもハタ迷惑なだけだ。
自分に記憶が無いだけに、かえって苛立たしくなる。
(過去を振り返ってもなんの足しにもならん。)
自分にとって、過去の記憶など無用だった。
「フン…。忌々しいだけだ…。」
鋭く先を見据える。
考えるのは後でも出来る。
「目先の事を考えねばな…。」
海馬は足早に遊戯の眠る部屋へと急いだ。
部屋へ入ると、中は先程よりも日が傾いたのか、少し暗くなっていた。
掛けていた眼鏡を外して近くにあった書棚に置くと、壁に設置してある数個のコンソールボタンの中から、一つを押した。
すると、窓から入る光を遮蔽するように窓ガラス伝いにブラインドが上から音もなく下がってきた。
「フン・・・・。こんなモノ、使うとも考えていなかったが…。」
緊急会議用として備え付けていた照明操作のシステムが、こんな所で役立つとも思ってはいなかった。
ソファーで眠っている遊戯の様子を伺いながら、ネクタイの結び目に人差し指をかけて少し緩め、Yシャツのボタンも二・三個外して開襟する。
少し、呼吸が楽になった…。
眠る遊戯にそっと近づきながら、声をかけた。
「…遊戯。」
起きないで欲しかった…。
今は、少しでも休息していて欲しかった。
自分が寝かせたままの姿勢で眠る彼を、起こさぬように注意しながら、後ろから首を手のひらで支え、背中に手をさし入れて…。
まるで壊れ物を扱うように、大切に…。
そしてふと、海馬は動きを止めた。
目元を見ると先程の乾いていた涙の上から、今も涙が流れていた。
更なる哀しみを感じているその姿は、まるで自分が責め立てられている様な錯覚に陥る。
「…っ!!」
その涙を見て、心臓が締め付けられるようだった。
自分が会議に出ている時でさえ、己のあずかり知らぬ所で泣いている遊戯を思うと、自分は一体何の為にここへ連れてきたのだろうか?と思えてしまう。
あの、ひたすら哀しむ姿を見て、今にもこの世から消えてしまいそうな遊戯を見て、自分の存在意義を無くしてしまいそうな恐怖感を感じて…。
「…オレのエゴか…」
そう言われて、笑われたって構わない。
(この存在を無くしてしまったら、オレはどうすれば良いのだ?!)
義父が自殺してから、自分の中の何かが壊れたまま。
その答えを、遊戯に押し付けているような気さえしていたが、今はソレでも構わないと思う。
こんな脆い精神状態の遊戯を放置しておけば、このまま心が死んでしまいそうで、二度と以前のような状態に戻らないかのように思えたのだから。
それこそ己が一番恐れていた状態になるのではないのか?
「…そんな事はさせん!」
腕の中で、涙を流しつづける遊戯をそっと抱きしめた。
いつまでも止まる事の無い涙…。
それだけ心の傷は、深いのだろう。
できるならば、治してやりたい。
(その傷を治してやる。)
心に誓う。
その時、腕の中で大人しくしていた遊戯が、少し身じろいだ。
「・・・・・ぃ・・・・やぁ・・・・・・」
首をゆるゆると左右にふって…。
また、新たに涙が流れ落ちる。
遊戯の涙に、心が強く締め付けられていく。
この状況をどうにかしてやりたくても、今の自分では抱きしめてやる事しか出来ない。
「…オレは、オマエに何をしてやれる?」
抱きしめる遊戯の肩口に、顔を埋める。
「抱きしめる事しか出来ないオレは、オマエに何を与えてやれるというのだ?」
こんなに無力な自分を感じるのは初めてだった。
「…遊戯っ!!!」
不甲斐無い自分に、初めて怒りに震えながら、涙する。
(オレが、絶対に治してやる!!!)
想いを込めて、抱きしめる。
「・・・・だから、泣かないでくれ・・・。」
だから、心を殺すような真似だけはしないで欲しい…。
(オレを置いてゆく事は…絶対に赦さない。)
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2004.4/4.14:25.pm
「白い心 6」
『おまちどー』って感じです。今回ちょっと難産でした。
っていうか、医者出てきてないし。気にしない気にしないハッハッハッ!!!
なんでしょね〜なんだか海馬君がヨワッチクなってきましたが…。
まだまだ続きます。長いなァ〜…。(自分で言うか)
でも、コレからが修羅場ですよ。こんなのまだまだホンの序の口。(文章へたくそなクセに…恐れ知らず。)
書きたかった事がいっぱいあるんで、それを一つずつ消化して行こうと思います。
まだまだ続きますが、お付き合いの程、宜しくお願い致します。
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白い心 6