正門から遊戯の手を引きながら姿を現した海馬の前に、黒いリムジンが静かに停車した。
 後部座席のドアが開き、ベージュ色の皮張りのシートへ乗るよう、遊戯に示唆する。
 そして自分も隣へ乗り込んで遊戯がきちんと座しているのを確認し、助手席に座る磯野に言った。
 「社に戻る。それと、腕のたつ精神科医を呼んでおけ。会議の後に、遊戯を医者に見せる。」
 「視察はどうなさいますか?」
 磯野が問う。
 「オレが行かなくてもどうにかなる。・・・・・・モクバは今何処にいる?」
 「モクバ様はただ今学校に行っておられますが・・・。」
 しばらく考えた後、海馬が口を開いた。
 「・・・・代わりにモクバを現地に向わせろ。・・・視察が済み次第、オレの所に連れてこい。」
 「かしこまりました。」
 そう言うと、海馬は手元にあるウインドウのコンソールボタンを慣れた手つきで、二・三個押した。
 すると前部座席と後部座席の空間を分断する壁のようなパネルが上から下りてきて、後部座席を隔離状態にした。
 (さて…。この遊戯をどうするかだ…)
 目だけで隣を見ると、まだ遊戯は涙を流していた。
 声を出して泣くでもなくまた、怒るわけでもなく・・・。
 涙を拭いもせず、頬から顎へ・・・そして、自分の握りしめたこぶしの上へと、今も落としている。
 (まるで『置物』だな…。)
 多少なりはモクバから聞いていた。
 もう一人の遊戯とデュエルしていると・・・。
 その結果がどうであれ、こんな状態になっているのだ。
 (精神的にキテいるのだろう・・・。)
 エジプトで出会った時は、なにか吹っ切れたような表情をしていたのだが・・・・。
 ・・・・おおむね、去り逝くもう一人の遊戯を心配させない為、無理にでも笑っていたかったのだろう・・・。
 家にいても、学校にいても、何をやっていても、無理していたのかもしれない。
 皆に心配をかけたく無いが為に・・・・・。
 遊戯の事だ、あちらから帰る時からずっと無理をして来たに違いない・・・。
 (哀れな奴だ・・・・・。)
 海馬は少し考えた後、コンソールボックスの中からカプセルを一錠取り出し、そっと遊戯の唇にあてて口の中に押しこんだ。
 「そのカプセルを飲め。少しは楽になるはずだ・・・。」
 そう言ってミネラルウォーターの入ったカップを、遊戯の手にしっかり持たせてやると、動作はゆっくりだったが、カプセルをなんとか飲み干したようだった。
 そして薬を飲み込んだ遊戯の様子を見る。
 数分もしないうちに目がすぅっと閉じていった。
 (効いたか・・・・)
 少しばかりほっとして遊戯を見ると、ゆっくりと首がしな垂れ、力の入らなくなった体が海馬の腕へことりと凭れてきたのだった。
 薬の効いている遊戯をそっと覗き込む・・・。
 頬は以前より幾分か痩せており、眼の下も黒ずんでいる。
 ・・・・あの日からは、常に眠れていないのだろう・・・。
 親に置いて行かれてしまった小さな子供のように、眠りながら、なおも涙を流す姿を見て、海馬は遊戯に対し、心から安らぐ場所を提供してやりたいと思った。
 そう言えば常に傷ついていたは、この遊戯だった・・・。
 ペガサスの仕組んだあの城での自分との戦いといい、城之内が洗脳されていた時といい・・・。
 もう一人の遊戯の心も傷ついていたが、この遊戯の心が、一番傷ついていたのではないだろうか・・・・・?
 (優しすぎるのも、問題だ。)
 自分の座っている所から少し腰をずらして一人分のスペースを開け、ずれ落ちる遊戯の体を支え、自分の方に横たえながら、眠る遊戯を起こさぬ様、優しく膝の上に頭を乗せた。
 「・・・・今は眠れ・・・・。」
 そう言いながら、海馬も目を閉じる・・・・。
 (オレがその呪縛から、お前を解放してやろう・・・。)



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2004.3/16.20:30.pm

「白い心 3
お持たせしました。白い心3です。
長い時間かかった割には車の中で終わっちゃいました・・・。/(T。T)トホホ〜・・・。
自分で書いといて何ですが・・・。
なんか、闇君がこれを見ていたら、「そんな薬飲ませて、相棒に何がしたいんだっ!!!海馬ぁ!!!」とか言ってパンチ食らいそうですが・・・。
海馬君は、全く悪意は無いんです〜(TT)ホントです。
飲ませたのにも、理由があって飲ませている訳で・・・ほ、ほんとですってば…(汗)。
これから、遊戯君はどうなっちゃうんでしょうか・・・?
先に言っておきましょう。残念ながら、アッチ方向には進まないので。
海馬君、この時点ではまだ遊戯をデュエリストとして扱っていますからね・・・。
実は今回こそ続きのページを作ろうと思って頑張ったのですが、時間が無さ過ぎて出来ませんでした・・・。
なるべく早く更新したいのですが、いかんせん仕事している身ですので、余計に時間がかかってしまうわけですよ・・・。
申し訳ありませんが、分かってやって下さいませm(_ _)m
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白い心 3