一路死よ!(日本平)
(EP82ターボ)
自分の車を所有するという行為は免許を持っている人、特に車が好きな人にとって人生の中でも大きな行為であると思う。私もその中の一人であるが、学生の頃はなかなかお金もなくて所有することはなかなか難しいので憧れの的であった。免許を取ってから友達が一人、また一人と車を購入し、または買ってもらい乗り回している姿を見るとうらやましさのあまりため息が出るほどである。
そのような環境が続く中、大学の後半になるとこの「車が欲しい」という欲求が気が狂いそうなほど強くなり頭が変になりそうだったので遂に購入することにしたのが写真の車である。EP82スターレットGTターボ。速い!安い!かっこいい!!当時の私の要求をすべて満たしてくれたのがこの車であった。小排気量なFFターボ車は今現在は生産されていないのでとても貴重な存在である。小柄軽量なボディーとは裏腹に135PSのエンジンが搭載されていてとても加速が良かったのを今でも覚えている。アクセルを「ぐっ」っと踏み込むと3速でもホイルスピンをするほどであるがその荒々しさが今でも懐かしい。「走る棺桶」、と誰かが言っていたがある意味それは的を得た言葉なのかもしれない。足回りもNA車と比較すると硬めにセッティングされた足回りで、カーブに差し掛かるとややアンダーステア気味になるがそれをねじ伏せてコーナーを抜けていくのもまた面白く、それがまた醍醐味の一つであった。下手なスポーツカーよりよっぽどこの車のほうが速いと今でも思うし、すばらしい車であると思う。
納車の日が待ち遠しく、納車されてからすぐに友達を呼んでそのあたりを走り回ったりワックスをかけまくった挙句てかてかにして悦に浸っていたが、ふと長距離を走りたくなった。今までも車で長距離の旅行に出掛けたことは何度かあったが自分の車で出掛けたことはまだなかったのでこれが良い機会であると思い、大学の友人であるだんな(愛称)を呼んでドライブに行くことにした。
国道1号線を東京方面に向かいなんとなく久能山、日本平方面に向かってみた。この日は天気もよく富士山がかなりくっきりと見えたのが印象的だった。特に峠道を越えた後、海越しに見えた富士山の美しさは筆舌に尽くし難い。景観の美しさは勿論であるが自分の車でここまでやって来たという満足感が私の心の色眼鏡に付加価値をつけていたのだと思う。この日は総走行距離が500キロを超えていたがうれしさのあまり疲れも忘れてひたすら走り続けた。
その後も日常の足に使ったり夜の峠を疾走しに行ったりと大活躍ではあったが一つだけ不満なことがあった。それはナンバーの数字が良くないことであった。いま思えば些細なことであるが当時はこれがかなり気になった。その数字とは「16-44」、語呂にあわせたら「一路死よ」と読めてしまう。なんだか今すぐにでも車が(自分が)死んでしまうような気がしてならなかったが、果たしてそれは現実のものとなってしまった。
とある日のことである。普通に走っていたら変な黒のプリメーラが後ろからついてきて、そのドライバーがいちゃもんをつけてきた。細い目で金髪、ロン毛、歯はぼろぼろで一見してシンナーでもやっているように見えすいでたちである。それから500メートルくらい走行した後に前の車が急ブレーキで(おそらくハンドブレーキを使って)停止したので避けきれずに追突してしまった。ちょっと車間距離が短くなってきたので警戒するべきではあったがもう後の祭りである。気が動転していてとりあえず電話を近所に借りに行って戻ったら相手はもういなくなっていた。警察を呼び何とかしてもらおうと思ったが相手のナンバーを控えることを忘れ、保険屋に電話したが契約した内容が車対車に限り車両保険が降りる内容だったので保険も降りず、修理屋に持ち込み見積もりを出してもらったら50万くらいかかるとのことで泣く泣く廃車になってしまった。いや、本当に涙が止まらなかった。自分の不注意もあるがあまりにもむごいと思った。自分の財産の結晶はわずか1ヶ月にして鉄屑となって消え去ってしまった・・・。その後数日して携帯電話の契約に行ったのは言うまでもないことである。