ちだっち、カレーに中る(あたる) (スリランカ)


    うまいカレーが食べたい、そんな気分になる日は誰でもあるのではないかと思う。私もそのような日がたまにあるが「カレー中毒」に陥った場合の治療法はただ一つ、「カレーを食べる」しかない。私の人生を振り返って見ると大学時代が一番この「中毒」に陥っていた。安い、うまい、腹にたまるという理由から学食でよく食べていたことがきっかけだが、大学の後半になるとインド文化を考える授業で「カレーにおける定義」なるものを学び、バイトではなんと某有名カレーショップで働いていた。まさに24時間カレー漬けである。ひどい時にはバイトでカレー、家に帰ってカレー、学食でカレー・・・、という具合に3日間カレーばかり食べ続けた挙句友達に呆れ顔で、「カレー臭い」とまで言われたものである。まさにジャンキー!、しかしカレーには食欲をそそる何かがあると私は信じている。(注:私はカレー教信者ではありません!もう引退しました)こんなことを書いていると自分でも不気味な気がするがこの頃のカレーについての話題は別の場所で機会があれば公開したいのでここでは割愛させていただく。

    私とカレーにおけるお付き合いは上記の通りであるが旅に出てもやはり縁はあるものである。アジア(特に東南アジアより西)に出掛けると実に多様なカレーに出合う。シャビシャビなもの、緑色のもの、具が一つしかないものなど日本では想像できない「カレーさん」がたくさんいらっしゃるのが現状だが、「カレーって何?」、と訝る方もいらっしゃると思うので昔私が習ったカレーの定義をここで紹介すると次のようになる。

      1、様々な香辛料を混ぜたソース
      2、お惣菜、料理の具
      3、スパイスをふんだんに使った油料理
      4、大量の香辛料で味付けしたインド風料理

従ってこのうちの一つでも該当すればその料理はカレーとみなされるので実に多様な料理になってしまうのが現状である。話が少しずれてしまったので戻すが、とにかく旅先で私はこのようなカレーに出くわすことが多い。

    スリランカのキャンディーという街に着いた日のことである。その日の宿も確保し、繁華街を歩き回ってきたらお腹がすいてきた。周りの様子を見ながらレストランらしきところを探したがこういうときに限ってなかなか見つからない。ふと目の前にケンタッキーを発見したがここまで来てまでこの店に入るのも嫌だったのでがんばって歩き回った。有名なお寺の前の門には使い古したAK47(注:ソ連製の自動小銃)を持った警備のおじさんが睨みを利かせて立っていたのでちょっと怖くもあったが、さらに30分くらいうろついた挙句にとあるホテルに着いた。スリランカでは「ホテル」と名のついているところがレストランだったりするのだがここはどうも本物のホテルらしかった。「たまにはぜいたくしてもいいかも」、などと思い上がったのが今回の間違いだったかも知れない。しかしそんな思いと裏腹に足は入り口に向かって進んでいった。

   中に入ると薄暗く、お客もほとんど見当たらなかったので開いているか不安だったが普通に営業しているようであった。しかしこの暗さが格調高さを演出しているようにも見える。値段もこの国にしてはデラックスだったが久々に味わった静かな雰囲気も手伝って少しぜいたくにサラダとポークカレー、紅茶を注文してみた。10分ほど待ってからオーダーしたものが出てきた。美しく盛り付けされ匂いも言うことがなかったので早速一口頂くことにした。若干塩味が強い感はあるがとてもおいしい。香辛料が少々きつく(それでもかなり少なめにしてもらった)辛い気もするがそれを打ち消すおいしさである。肉もやわらかく煮込まれており食べてみると脂身のぷりぷりした食感から豚の旨みが口に広がっていく。「あぁ、来て良かった!」、掛け値なしでそう思える瞬間であった。

  しかしこのおいしさに油断したのかもしれない。幸せは長い時間持続することが不可能であるのは世の常であるがこの時もまさにそれが当てはまった。カレーに入っている香辛料に関しては丁寧に取り除いて食べていたつもりであったが、とある瞬間に「ガリッ」、という音と共に辛さと苦さが私の舌を貫いてしまった。 取り出してみると何かの葉っぱだったので急遽紅茶で口の中をうがいしてみたが後の祭りである。それ以降はこのカレーを堪能することが出来なくなってしまった。どことなく脂のくどさが強調され、また香辛料が鼻につくようになり遂に食べれなくなってしまった。以前タイでグリーンピースと香辛料を間違えて強引に食べた後で病院に担ぎ込まれてしまった悪夢のような一夜を思い出し、「無理はいけない」、と自分を諭しこの目の前のカレーを断念することにした。実にもったいないが背に腹は変えられない。

  その後も体調は悪化の一途をたどり、悪寒や吐き気がしてきたので宿に帰る途中で薬を飲むためにミネラルウォーターを買った。同時に口直しのつもりでアイスを買って食べてみたが余計に気持ち悪くなってしまった。どうやら火に油を注いでしまったようである。必死の思いで宿にたどり着き、正露丸を飲み下した時には頭痛もしてきたので残された選択肢は寝ることしかない。しかしいざ寝る時になって気が付いたのだがこの部屋には毛布や布団類が全くなかった。エアコンもない暑い部屋なのでそのような気の利いたものは用意されていなかったのである。仕方がないので上着や洗濯物、タオルを体の上に振りかけて眠ることにしたが寒気のする体には大した効果はなかった。部屋の灯りを消してもなかなか眠ることも出来ず窓の方に目をやると雷の稲妻で周囲が時々明るくなっていた。部屋に帰ってきた頃とほぼ同時に天候も悪化し雷雨になっていたかであるが、まるで私の体調に同調してくれたかのようだった。私はこの不思議なめぐり合わせに少し感動を覚えたがちっともうれしくなれなかった。体調を崩して洗濯物にくるまって寝るカレーの臭いを発する男・・・。馬鹿丸出しである。



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