ちだっち的奈良な旅



   「奈良に行きたい」、と思ったのはつい最近のことである。それまでは奈良みたいな渋うい町は爺婆の行くところ、なんてとんでもないことを考えていたふしがなかったといえばうそになる(奈良の人ごめんなさい!)。しかし、海外にも足を延ばすようになってから日本的な香りの残っているところに行ってみたくなり、また今回の時期は梅雨の真っ只中にあるので雨が似合うところ(雨のときに行っても風情があって楽しめるところ)はどこか?、と考えていくとこのような街がいいだろうという結論が出たので思い切って12年ぶりに本格的に奈良を訪問することにした。

   実際に奈良に訪問してみると、修学旅行のときとはまた違った印象だったのが不思議なのだが、小学生時分の記憶なのでそんなものかも知れない。具体的な場所については写真館を見てもらえれば分かっていただけるかと思うのでここでは説明を省略させていただくが、東大寺周辺における外国人人口が妙に増えた気がした。小学生の時には興味がなかったのかもしれないが、今回は妙に目に付いた。金髪、青目の西欧の人もいたけど、韓国、中国、台湾といったアジアの人が多いのが目に止まった。物価が高く、人見知りする人が多く、まだまだ外国の人々にとって日本は遠い存在のような気がしたが、この地だけ見ると一瞬どこの国だか分からなくなる。だがそこがまた新鮮で心地よく、自分の中で奈良の新しい方向性を見出した気がした。うーん、さすが奈良。伊達に世界遺産にはなっていない。

   そんな思いを抱きつつ街を徘徊していると、一人のおじいさんに出会った。別段変わったところもない普通の人であったが、ただ手には戦前のバルナックタイプのライカを手にしていた。なんとなく話をしていると話が弾み、喫茶店に入ってそのおじいさんの話を聞くことになる、とは夢にも思わなかった。
   喫茶店に入り、ライカの話が中心であったが、いろいろ話を聞いてみる。旅は人との出会いがあるから面白い、と最近になってこの使い古された言葉を味わうことになったが今回もまた然り。なかなか味のあるすばらしい人であった。そして結局コーヒーをおごってもらい、せめて名前を教えてもらおうと思ったがその人は名乗らずに去っていった。

    この旅で得たことはいろいろあるが先述のおじいさんとの出会いに勝るものはない。人は財産、という言葉をどこかで聴いたことがあるがその通りかも知れない。その地の名勝地は確かにすばらしいし、足を運ぶ。だがそれに人との出会いが加わると、特に一人旅の場合はそうだが、旅の思い出にグッと鮮やかに「色づく」ものである。国内を回っている中で久々にこのような出会いを体験することができた。日本もまだまだ捨てたものではない。



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