白い心 2章 【慟哭】











どうして一人で戦うの?
(お前を巻き込みたく無かった…)

どうしていつも一人になろうとするの?
(お前とのいつかくる別れが辛くなると思って…)

どうしてそんなに苦しそうに笑うの?
(お前にオレの正体を知られたく無かった…)

どうして一人でいつもなにかを背負い込んでいたの?
(オレが「全ての根源」だから…オレに逢わなければ…お前は…)

どうして自分から孤独になろうとするの?
(オレが近くにいると…お前を…苦しめてしまうから…)





ねぇ…どうして君はボクを置いて逝ってしまったの?
(オレは…愛してはいけない者を…お前を…愛していた…から…)

ボクはそれでも…君とずっと…一緒に…
(一緒にいれば…いつかお前を……壊してしまう…)











見え透いた、嘘を並べ立てて。
嘘の言葉でお前を安心させて。
その言葉を素直に受けとめて。
オレに微笑んでくれたお前を…






見ていて心苦しかった…。






オレは、きっと解っていたんだ。







最初から…

お前と、いつか別れる時がくる事を。

解ってたんだ。







済まない…相棒…。







今、お前はどうしているだろうか…?

最後に見たあの涙が…。








眠るオレの心を、今なお掻き乱す…








オレの最大のライバルであり



オレの最愛の…









……遊戯…。












遊戯とモクバを連れ、いつもの別荘へやってきてもう3ヶ月が経とうとしていた。
こちらに着いた当初は、遊戯も塞ぎ込みがちだったが…。
当たり一面が冬景色になってからだろうか…僅かながらも心を開こうとしていた。
白い景色に、不安だった心が開放されたのか…


「それとも……」


海馬は自分の仕事の手を休めて窓辺に近寄ると、外ではモクバと遊戯が互いに雪をかけ合っているようだった。
楽しそうにしている遊戯を見ていると、あの落ち込んでいた時の遊戯が信じられなくなる。


「…まだ囚われているのか…。」


あの、ファラオの亡霊に…。
優しい遊戯のコトだ。
きっと今も後悔しているに違いない。
時折見せる寂しげな笑顔は、それを物語っていると言って過言で無いだろう。


「…どうすれば、お前を救ってやれるのだろうな…。」


自嘲の笑いと共に、身にしみる自分の不甲斐無さ。
遊戯の心は、己には無いのだと…。
その瞬間に思い知らされる。


「…フン…オレも…随分と腑抜けになったようだな…。」


遊戯の影響なのか、それとも…。


「………オレが変わったのか…。」


考えたくもない。
自分が変わるなど、ありえないのだから。


「そう。そんな事などありはしない。あの日からオレは…海馬剛三郎の…」


…海馬コーポレーションの社長と言う座と、奴の創り立てた暗い過去全てを引き継いだのだから。
そんな一銭の価値にもならない、下らない感情など等の昔に捨て去ったもの…。


「………今の俺には必要ない物だ…。」


海馬は自分の考えを払拭するかのように、再び残っている仕事に取り掛かった。











「なぁ!遊戯!!!もうそろそろ休憩しないか?!」


元気よく雪をかけ合いながら、もうすでに3時間が経過しようと言う所で、雪まみれになったモクバが遊戯に話しかけた。
いくら体を動かしているからと言っても、この寒い気温の中では、立ち止まっているだけでも体温は奪われて行くのだ。
もうそろそろハーフタイムを取らないと、いくら元気が有り余っているからと言ってはしゃいでいたら、風邪を引き兼ねない。
なにせ、ここは童実野町とは標高の差が1,000メートルもあるのだから。


「うん!そうだね!!!」


これまたモクバに負けず劣らずに至る所が雪まみれになった遊戯が答える。
とても楽しそうに笑う彼に、モクバも自然と顔がほころんで来るのが解った。


「なぁ!遊戯!取り合えずお茶にしないか?」


真っ白な銀世界の中に孤立する、白亜の豪奢なロッジの方へと二人で歩いて行きながら、体中に付いた雪をはたいていた。
雪質は、高所特有のさらさらのパウダースノー。
雪合戦するには殆ど無理に近かったので、ならばいっその事雪かけっこだ!と言う事で、二人とも頭の先からつま先まで雪がまとわり付いていたのだ。
だが、空気が事のほか湿気を帯びていない事が良かったのだろう。
手で払っただけで雪はスノーウェアから落ちて行った。


「ね、モクバ君…。ボク…。ホントに良いのかなぁ…?」


雪を払いながら、心配そうな瞳で遠くを見、寂しそうな表情をする。


「…ん?何が?」
(また、あの寂しそうな顔…してる…。)


遊戯の言いたい事が判らずに聞く素振りを見せながら、内心では違う事を思っていた。
幼いモクバの心にも、今の遊戯の寂しげな表情は、こちらも泣きそうなくらいの表情をしているのだ。
きっと等の本人は気付いていないだろう。
…自分がどれだけ寂しい表情をしているのか解かってないに違いない。

(どうせなら、このまま気付かせない方がいいな…)

まがりなりにも、モクバは「海馬コーポレーション副社長」という、人を管理する側の人間だ。
自然に身に付いたとも言える人への配慮は、兄に劣る所はあれど、どんな時であろうと細やかな気遣いを発揮する。


「なぁ、遊戯……」

「……ねぇ…。…海馬君はなんの為に僕をここへ連れてきたの?」


デュエルはしない、海馬コーポレーションの新作ゲームのデモテスターでも、モニターでもない。
…では、自分を何の為にここへと連れてきたのだろうか?
連れて来られてから、ずっと疑問に思っていた事を、遊戯は思いきってモクバに聞いてみたのだった。


「………今まで、ずっと聞けなかった…。」


晴天と共に、目の前に広がる白銀に包まれた景色を、意を決した様に見つめながら…。


「教えて…海馬君は何を考えているのか。どうして僕をここへ連れてきたのか。」


海馬の事だ。
何も無くこんな所へ連れてくること事態が考えられない。


「どうして……」






…自分を…。

彼の元から引き離したのか。

彼と自分の思いの詰まった町から…全てのものから引き離したのか…。

あの場所から離れたくなかった。

今はもう、あの場所しか…。






「…ボクの…居場所は……」










───ボクの心の還える場所は、無いのだから…。





2005'01/14 22:26p.m.


□白い心2章【慟哭】1□

お待たせしました。やっとこさ2章書き出しました。
ですが、なんだか「海表」の小説のワリには『闇表』化してるのは気のせいでしょうか…?
でもちゃんとした海表ですから………(遠い目;)
さて第2部初っ端から波瀾模様です!!!
遊戯君が、それとなく…とてもやばげ…?
…次はどうなるんでしょうか…(ーー;)>゛バリボリ…