Pink blossom ~Y,side~ 2






僕達を乗せて走る車の中、アテムは怪訝そうに運転手さんに話しかけた。

「…今日は、海馬の会社じゃないのか…?」
「えぇ、瀬人様のお言い付けですと、自宅へとお連れするように伺っておりますが…。」

そう言うと、ふと思い出したように微笑んでアテムに話しかけた。

「いつもデュエルされる時は必ず会社ですからね。」

ふふ、と優しそうな笑いをこぼした運転手さんは、緩やかなカーブに沿ってハンドルを切りながら話しつづけた。

「本当に、昔の瀬人様からは想像できないぐらいにお優しくなりましたよ…。
素敵なお友達が出来ましたようで、私達も喜んでおります。」

すこし、間を置いて


「これからも、瀬人様のお友達として…そして、良き理解者として支えてあげて下さいませ。」


自分の事のように、とても嬉しそうに話してくれたその笑顔が
会社での『社長』でいる海馬君が、どれだけ彼から慕われているのか
少し、判った様な気がした…。

(海馬君、好かれてるんだね…)

そう思うと僕も少し嬉しくなって、ちょっと笑った。
学校では、皆に嫌われているような状態にある海馬君。
一人でいるのは辛くないの?と聞きたいと思った時もあった。
でも、僕からその事を聞くのは何か違うと思って聞けずにいたんだ。
その疑問が、一気に解けた。
本当に

「よかった…」
「何処が良いんだ?!」


知らないうちに口にしてしまったらしい…。
強い語調から察するに、怒ってるアテムに振り向いた。


「考えてみろよ!」
「何を???」
「海馬がいつもオレとデュエルする時は必ず『会社』なんだ!
それを、きょうは遊戯に用事があるからって自宅へ呼び出したんだぞ?!
危険だと思わないのか?!」

怒って頭ごなしにそんな事言われたって、さっぱり意味がわからない。
なにがどのように危険なのか?
そのまえに何でアテムが怒ってるのかがわからない。
僕はアテムに怒られるようなことした…かな?
判らない時は聞いたほうが得策だよね。

「ねぇ、僕、君に起こられるような事した?」

少し潤み始めた瞳で…。
上目遣いのカワイイ表情で見てくる遊戯。
「又悪いこと、しちゃったの?」といわんばかりの、その眼で。

(…参ったなぁ…。)


この瞳に、自分は滅法弱いのだ…。


困ったアテムは、ハァと深いため息をついて僕の両肩に手を置いて言った。

「いや…何でもない。俺が悪かった。だから、そんな眼をしないでくれ。」

(第一、そんな可愛い顔を海馬なんかに見せてみろ!!おまえ、とって食われるぞ!!)

それに、俺だって…例外じゃないし…な。

焦る自分の心を急いで整理しながら、遊戯に言った。

「いいか?今日はどんなことがあっても、俺から絶対に離れるんじゃないぞ?!」

離したら最後のような気がしてならない。
海馬の事だ。絶対なにか企んでるに違いない!!!!!

アテムは、遊戯の手を取りながら再び言い聞かせた。

「いいか?本当に俺の側を離れるなよ?」

何故か解らないが、危機迫ったかのようなアテムの顔を見ながら、こくりと頷いた。


「うん!わかったよ!!!」


にこやかに、元気良く返事する遊戯を見て。
この顔は、解ってないだろうなぁ〜と、内心でこっそりとアテムは思った…。






























車が門の前に来ると、自動的に感知してゆっくりと左右に開かれていった。

「凄いね〜!!!自動だよ!!自動!!!」

とても珍しそうにはしゃぐ。
こんなものを見たのは初めての事なので、そんな些細な事でも感心している遊戯が、とても可愛らしかった。

(家に着いたら、もっと凄いぜ?)

アテムは心の奥でそう思いながら、楽しそうにしている遊戯の横顔を微笑みながら見ていた。



僕達を乗せた車は、海馬君の自宅の門をくぐる。


「遊戯、あと十分ぐらいで着くからな。」

前を向いたまま話しかけてきたアテムは、さっきの様な優しい雰囲気をまとっていなかった。
今はただ前を睨んだまま、なんだかデュエル開始前の顔になっている。
…そもそも、彼らがデュエルしているのは遊戯を取り合っているらこそで…。

(海馬の魔手からなんとしても、俺が守るゼ!!)


───しかし、その事を何も知らないご当人は…。



(…デュエル、するのかなぁ?!それだったら、凄く見たいなぁ!!!)



ワクワクとしていた。





そんなこんなで。
色んな心情を各々が抱えながら、海馬邸の玄関に車が横付けされた。

「行くゼ、相棒!!!!」

(なんかデュエルする気、満々なんだね。君…。)

後部座席のドアが開き、アテムは意気込みながら先に下りた。
続いて遊戯も元気良く降り、ドアを閉めると、運転手に向かってお礼を言う。

「運転手さん、ありがとう!!!」
「どういたしまして。それでは、また…。」


そう言うと、車はそのまま玄関先のロータリーをくるりと回り、脇にある地下へと続く道へと消えて行った。


高級ホテル並みの玄関に取り残された二人は、顔を見合わせた。


「さ、俺達も行こうぜ!!!」
「うん!!!」


二人は目の前にある大きな白亜の扉を見る。
そして、固まった…。


一分後。感心したように遊戯が言葉を発した。


「凄いよ!!!ここまでするなんて、海馬君凄いねぇ〜!!!」
愛情の大きさと、ソレを行動に移せる事に感心する遊戯と。

「・・・し・・・・しかし・だな…。だからって、ここまでするか?」
(前来た時は、こんなの無かったぜ?)
あまりの海馬の愛情に、驚愕しつつも呆れるアテム。





一扉面のブルーアイズ…。
しかも、左右に一匹、頭上に一匹。計、3匹のブルーアイズ…。
なんだか、かなり危険な童話が出来そうだとアテムは思う。


(『三匹のブルーアイズ』って童話が出来そうだ…。)
グリム童話ならぬ、海馬童話…。
…それはさぞかし、恐ろしいモノに違いないだろう…。



などと考えを浮かべていたその直後。
後ろから不機嫌そうな声が、頭上から掛けられた。
「フン…。キサマにはこの美しいフォルムと価値が、一生解り得ないだろうな。」

腕を組んだいつもの格好で、長身の彼が立っていた。

考えられない事に、いつものアノ服でなく、軽装で。

夜だと言うのにサングラスをかけていた。
細いフレームシルエットで、薄いグレーのサングラス。
これならば夜も見えなくは無いだろうが…。

「海馬!!!」
「海馬君!!!」

(二人で同時に驚くところが、流石、二卵性双生児と言うかなんというか…。)

そっくりなところが案外あるものだと、妙な関心を抱きながら
海馬は薄い色のグラス越しに兄弟を見た。

「よく来たな…。遊戯。」

ちらりと遊戯の隣を見て

「…兄同伴か?」

遊戯に問うた。


海馬の態度が…。いや、総てが気に入らないアテムは食って掛かる。


「相棒はやっと風邪が治ったんだ!!
夜に病み上がりの体で、お前のところに一人で行かせるなんて、危険なまねさせるわけには行かない!!!
第一、俺とデュエルするときは会社で、何で相棒を呼ぶときはお前の自宅なんだ!!
お前だけは、絶対に許さないゼ!!海馬!!!!」

人に指をさしながら一気にまくし立てるアテムの言葉を聞き流し
遊戯にもう一度視線を戻すと、なんだかポヤァ〜っとしていた。
心なしか、頬はうっすらと朱がかっている。

(風を邪引いてたとか言っていたが、…ぶり返したのか?)

「どうした?風邪がまだ辛いのか?」

海馬の言葉に、首を左右にふった。

「では、何だ?」

少しハズカシそうにしながら、海馬を見上げながら言った

「デュエルしてる時の服や、学生服の海馬君しか見た事無かったから…。でも…」

一呼吸置いて、海馬を観察する。
海馬の着ている腰までの丈の長袖の白Vネックセーター。
素肌に着ているのだろうか?
子供っぽい自分のソレとは違う、たくましい彼の鎖骨が見えて、大人の雰囲気がある。
玄関口のほんのりとした明かりではしっかりとした色は解らないのだけれど、カーキ色のジーンズだろうか?
長い足に、ストレートのジーンズ。
きっと、彼なら裾直ししなくて済むんだろうと思いつつ…。
兎に角、モデル並みに、かっこいいのだ。
こんな軽装でさえ着こなしているのだから…。

「今のカッコのほうが、僕は好きだな。飾らない海馬君らしくて…。」

そう言って、自分のように嬉しそうに微笑む遊戯を見て、海馬も目を細め、まんざらでは無さそうだった。



外したサングラスを折りたたむと、Vネックの胸元に掛けながら遊戯たちに背を向けた



「…付いて来い。お前に見せたいものがある」



屋敷の中へは入らずに、そのまま屋敷の外壁に沿って左へと歩き出した。

「あ!待ってよ海馬君!!」
「待て海馬!!!」


二人はいきなり歩き出した海馬の背中を追いかけた




(なんで、アイツ外にいたんだ?普通中から出迎えるもんじゃないのか?)
(それに相棒に『見せたいもの』って、何だろうな…)



何があるかは解らないが、とりあえず今は海馬の後に付いて行くしかなかった。




(何があっても、相棒は俺が守る!!!)



そう、心に誓って…。










To be continued...













2004.5/1/22:40.p.m
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