□凍れる月□ (2)
『で、どうよ?海馬のお付きは…。』
携帯電話の向こう側から、この状況を少し楽しんでいるような城之内の声が聞こえる。
飛行機での移動最中、遊戯は城之内へと携帯で連絡を取っていたのだった。
残した仕事の引継ぎもままならぬ状態で来てしまったのも気に掛かったし、取り合えず明後日からは社にいない事を伝える為に…。
そして、引継ぎもままならぬ状態の仕事の経過を聞いている最中に、自分の現在の仕事を聞かれた。
遊戯は城之内に全てを話したのだった。
「もう大変だよ。色々教え込まれてる感じ。あ、でも、学校の授業とかよりも凄くすんなり理解出来るんだ。」
頭の悪い自分でもすんなりと理解出来るように、海馬が細かに教えてくれているのだ。
「本当に、瀬人社長って凄いよね!ボクたちと同い年なのに、高校生の頃から社長業をしてて、今も社長してるんだから!凄いバイタリティあるよね!」
自分の事のように、嬉々として語る遊戯に、城之内は少し寂し気に話す。
『…お前も、すげぇよ、遊戯。あの海馬が、自分から人に教えるなんて、普通しねぇだろ?』
「──じょ…う……」
『まぁ、海馬も……お前の事、気に入ってんだろうな…。』
(自分の手元に置きたいぐらいに…な…。)
『まぁ、遊戯ならナンとかなるだろ!こっちの事は気にしないで、海馬のお守、頑張れよ!』
クスクスと、城之内の言葉に笑いながら、遊戯は二・三言言って電話を切った。
「──さてとっ!海……瀬人社長の元に戻らなきゃ!」
通路から乗客室に戻ろうとして、扉を開けたら、そこに海馬が立っていた。
どうやら、海馬も外に出ようとしていたらしい。
「…あっ…ごめんなさい!海…じゃなかった、…瀬人社長。」
慌てて言いなおす遊戯に、海馬は少し笑いながら、遊戯の肩にそっと触れる。
「二人の時は、お前の好きに呼べば良い。」
滅多に見れない海馬の微笑に、遊戯は見とれていた。
(……かい…ば…くん?)
「──遊戯。凡骨との電話は済んだか?」
いまだに見とれている遊戯に、海馬が当問う。
「えっ?!は・はい!」
顔を真っ赤にして、返事をする遊戯。
(どうしよう!見とれちゃったよ!!!)
そんな遊戯の心を知ってか知らずか…。
海馬は遊戯の背中にてをあてがったまま、室内に入る様に促した。
「配属一日目から移動が多いが、直ぐに慣れる。今から童実野町ホールでデュエルセミナーの講義を行なわなければならない。そして講義が終わり次第、明日の海外出張の手筈を教える。」
室内に設置されたソファーに座る海馬に、遊戯も腕を引かれて隣に座らせられる。
(……なんで隣に座らせるの?)
普通は対面して座るものだと教えられたのだが…。
遊戯は少し戸惑いながら、海馬に問いかけた。
「──あ・あの……ボク、瀬人社長の隣で良いんですか…?」
顔を赤らめながら少し緊張して、自分より高い位置にある視線を見つめ返す。
海馬も、遊戯を見つめたまま、何も言わない…。
「…瀬人……社長?」
遊戯は、見つめたままの海馬を、そっとのぞきこむ。
その視線に気が付いたのか、そっと目線をずらし、テーブルの上においてある書類を指し示し、スケジュールを伝える。
「…始めの内は慌ただしく感じると思うが…。」
確かに…。
書類の束を見ても、海馬のスケジュールは秒刻みと言っても良いくらいの多忙さだ。
(こんなスケジュールを海馬君は高校生の頃からこなしていたんだ…。)
改めて海馬の人並み外れたバイタリティーと、タフさ加減に感心する。
(──ボクじゃ、きっと、海馬君の秘書って言う役はこなせない…。)
「…あの、瀬人社長…。……ボク…じゃなくて……私は……」
不安そうな遊戯の目に、海馬は苦笑する。
「『案ずるな』と言っているだろう?遊戯。──何故、そんなに己の能力を否定するのだ?」
こちらがいくら説得しても、自分の能力に対しての自信の無さに、直ぐに否定する遊戯。
(…一筋縄ではいかない…か…。)
それこそ、落としがいがあると言うものだが、メンタル部分に難有りと言う所か…。
(ふん……。面白い…。)
「……遊戯。これだけは先に言っておく。」
自信無さそうに、うな垂れている遊戯へと言い聞かせる様に。
「お前が何と言おうと『秘書』からは降ろさない。」
海馬の言葉に遊戯はビクリと肩を震わせ、相変らずの不安げな潤んだ瞳で、海馬を見上げている。
「──オレがお前を選んだのだからな。」
そう言いながら、海馬は遊戯の頭をクシャリと一撫ですると、ソファーから立ちあがった。
(………え…っ…?)
「現地に到着するまでに、オレは昨日までのデータを洗いなおさねばならん。遊戯。今日のスケジュールを、お前のノートパソコンで確認しておけ。デスクトップ上の常駐フォルダの中に入っているはずだ。」
まだ、何をされたのか、よく分かっていない遊戯は、頭上にハテナマークを飛ばしながらこちらを見ている。
海馬はその様子を楽しげに見ながら、室内にある上階へと続く階段を登って行ってしまった。
上の階は、海馬の社長室も兼ねているが…。
「……今のは………何…?」
遊戯はきょとんとしたまま、海馬の消えた階段を見つめていた。
遊戯が苦戦しながらも、なんとかスケジュールの管理表と仲良くなれた頃。
海馬が講演する童実野町ホールに到着した。
ジュラルミンケースを持った海馬は、飛行機のタラップから早々と降りて、長いコンパスで先へと行ってしまう。
それに何とかして遊戯も付いて行こうとするのだが…。
「…コンパスの長さが…は・半端じゃない…!」
息せき切らせながら、後を追い駆けてゆくと、ふと遠くにある海馬の背中がこちらを振り返った。
そして、フッと笑うとその場に立ち止まった。
何気ない仕草に、ドキリとさせられる…。
(……もしかして、ボクを待ってくれてるの…?)
ある程度の所まで遊戯がくると、海馬は又先へと行ってしまった。
(ボク、遊ばれてるんじゃないのかな…)
少し…いや、自分が本気で海馬の秘書をする事に不安を感じてしまう。
違うとは思うのだが、こんな事をされてしまうと余計に心配になってくるのだ。
自分が単なる海馬のおもちゃのように取り扱われているのではないか?と…。
「取り合えず、初日は乗り切ろう。」
(それでダメなら、部署変えしてもらえばいいんだし。)
既にホールの中へと入ってしまった海馬の背中を追い駆けていった。
遊戯も海馬について講演者控え室まで辿りつくと、ノートパソコンを開き海馬の今後の予定を告げる。
海馬の講演予定時間は…
「午前10:00より、講演開始となっております。」
ノートパソコンを操作しながら、遊戯は海馬に告げる。
…そして、思い出してしまう…。
──四年前の、あの永遠の別れを…。
一日たりとて忘れる事の出来ない、あの別れ。
自分の心が引き裂かれた、あの日を。
不意の事でも思い出すほどに心は深く傷つき、今なお血を流している己の心…。
(きっと、ボクが死ななきゃ治らないんじゃないかな…?)
そんな不穏な考えをしてしまう程、瞼を閉じればあの時がビジョンとして浮かび上がり…。
彼の声も、動きも、肩に触れられた暖かな感触までも、鮮明なヴィジュアルで脳裏に再生される…。
(………も…一人の……ボク…)
突然目の前が、涙でいっぱいになってしまった…。
溢れ出る涙を、止める事が出来なかった。
(…やだっ!!!…どうしよ…う…)
涙は止まるコトなく、遊戯の頬を濡らしてゆく。
急いで手の甲で涙を拭おうとして、寸での所で海馬の手によって止められて…。
「や!…離し……」
そして海馬の顔が近づき、流れ出る涙を唇で受けとめた…。
「海……?」
何が起きたのか解からず、ただ、海馬になされるがままの遊戯。
大人しくなった遊戯の細い肩をそっと抱きしめた。
「辛いのなら、無理はしなくて良い。」
それだけを言うと、海馬は遊戯を腕の中から解放し、腕時計をちらりとみた。
「…時間だ。」
ふと、遊戯を見つめて言う。
「今日は辛いなら休め。後は…磯野に任せれば良い。」
慣れない業務でテンパっていると思われてしまったのだろうか?
それとも、この涙の意味を知ってか…?
どちらにしろ、海馬は自分の能力を買ってくれているのだ。
それをこんな形で示したくは無い…。
「………へ・平気…です…。ボク………ボクは…大丈夫………ご免…海馬君……」
海馬の顔を見れず、俯いたままそう答える。
(ボク…どうしたんだろう…)
自分の気持ちが…
セーブ出来なくなってきている………
(…どうしよう…こんなんじゃ、海馬君に呆れられちゃう…よね…?)
そう思いながら、何とか己の気持ちを落ち着かせるのだった。
05'11/6 18:20
□凍れる月□(2)
ほんと、お待たせして済みません…<(_ _)>゛
ちょこっとずつ書いてたんですが…中々アップ出来る事が無くて今日になりました…(泣)
実は…今年の春先から書き出して、書き溜めて海馬君の誕生日にUP使用と思って企んでたんですよ…
結局少ない量で終わってしまって…挙句に中途半端…
モノの見事に『粉砕!!!』( ゚∀゚)ノ゛ワ〜ハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \!!!
かなりショック…'`,、(ノ∀`)'`,、
でも、まだ先もあるので、嘆くのは書き終わってからにします。
とりあえず今は書かなきゃね!!!