「眠れない…。」
もうそろそろ草木も眠る丑三つ時と言うのに、一向に眠気がやってこない…。
手持ち無沙汰のまま、心の部屋の中にある自分のベッドの上でコロリと横になる。
(もう一人ボクは…眠ってるのかな…。)
彼の寝顔を一度も見た事が無い遊戯は、ある事を思いついてもそりと起き上がった。
「…よし。いっしょに眠ってもらおう。うん。」
勢いよくベッドから飛び降りると、遊戯は心の廊下に見えるもう一つの心の扉を、優しく叩いた。
おどろおどろしい扉に、そっと声をかける。
「もう…一人の……ボク……?」
扉越しに、中へと呼びかける声も小さく、まるで起きてくれるなと言っているようなもので…。
──それでも。
その部屋の主は起きていた様で、そっと扉を引き開けた。
「…?どうした?相棒…?」
いつもと変わらない、優しいその笑顔に…。
何故だか、心がズキリと痛んだ。
微笑んでくれていると言うのに、何故か、いつもの笑顔が出来ない…。
「…どうしたんだ?相棒?」
いつもなら己の笑顔に答える様に微笑み返してくれるはずの遊戯が、今目の前で悲しそうに笑っている…。
「何かあった…のか?」
こんな夜更けに叩き起こされ、不満一つもらすどころか、自分の心配をしてくるもう一人の遊戯に…なんだか、申し訳なくなってしまった。
たかが自分が眠れ無いからと言って、もう一人の遊戯を起こしてしまった事に…。
自分の浅はかな考えに、嫌気が差してくる…。
(…悪い事…しちゃったな…。)
今なお心配そうに微笑みかけてくれているもう一人の遊戯に、なんだか顔向けが出来なくて…俯いてしまう。
「ごめん、なんでも無い。お休み…もう一人のボク…」
ぶっきらぼうにそう言い放って、自分の部屋の扉を開けようとして…不意にその扉を横から出てきた手に差し止められてしまった。
(えっ?!)
何がおこったのか解らない。
ただ、感じたのは…。
背後にもう一人の自分がいて、その温もりに抱きしめられていると言う事だけで…。
「……行くな…。」
耳もとで聞こえる、かすれた寂しげな声…。
「……頼むから……そんな顔…しないでくれ」
その声と、優しい温もりに縛られて…動けない…。
…振りかえる事すら出来ずにいると、耳元でふいに囁かれた。
「………独りに…しないでくれ…」
彼の言葉に、弾かれるように顔を上げ、顔を見ようとして…抱え込まれて阻止されてしまった…。
「済まない…。今、相棒には見られたくないから…。」
再び、済まない…と言われて…。
でも、しっかりとした表情は見えなかったけれど、彼のその横顔をかいま見ていた。
寂しそうに、一人で傷ついて…何かを強く求め、今にも消えてゆきそうな表情………。
(──あ…っ……)
遊戯は弾けた様に振り向いて、咄嗟に彼の胸に顔を埋め、背中を抱きしめた…。
「──泣かない…で…。」
もう一人の遊戯は泣いてもいないのに…。
むしろ、そんな表情を見てしまって、自分の方が泣きそうになっているのに…。
本当はそんな言葉が言いたかった訳じゃないのに…。
どうしてか口をついて出てしまった、その言葉…。
「…ボクが……ボクが一緒に………キミと、一緒にいるから…。」
ずっと…一緒に…。
キミといるって約束する…から…。
「泣かない…で…」
ずっと…離さないで…。
君の隣にいさせて…。
──『ボク』の心を…。
2005.2/20.15:50.pm
頑張った子にご褒美で書いた物だったりする…。
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014,横顔