夏休みが終わりに近づいた頃。
出かける気分もなくて、終始自分の部屋でぼんやりとする事が多くなってきた。
気力が出ない。
…そう。無いのだ。
彼の人を己の手で冥界へ還して、何だか気が抜けてしまったのだ…。
結局、一番大事な人は守りきる事が出来ずに、己の手の中からはすり抜けていってしまったのだから。
その感覚に疲れが重なったモノなのか分からないまま、こうしてぼんやりと時を過ごすことが多くなってきた気がする…。
「もう一人のボク…」
天窓の向こうの、茜色の夕焼け雲をぼんやりと見つめながら、ポツリと、その名を呼んでみる。
自分の、一番大事な人で、無くしたくなかった人の名を。
「…ボク…こんなに女々しかったかなぁ…?」
今日は…起きたら………泣いていたのだ。
今まではこんな事は無かったのに…。
自分が今現在一人なのだと知らしめられているようで、妙な焦燥感と寂しさが襲ってくる。
「ボクも…案外と…」
寂しい気分をどうにかしたくて、無理やり微笑んで笑顔を作ってみるが…。
「…駄目だ…」
どうしても泣き笑いになってしまう。
どう頑張っても頭の片隅にあの出来事がまとわりついてくる。
理性では分かっている。
あの時点では『あの選択』が…
自分が彼を冥界に還した事が正しくて、それで良かったのだと…
そう思い込ませていたのだ。
…己に。
心の奥底では…彼の存在を手放したくないと…
自分が守り通す事が出来るのだと、奢っていたのだ。
「…結局…」
─君がいなくちゃ、駄目なんて─。
今ごろ気づいた気持ちに、遊戯はそっと毒づいた…。
「…情けないなぁ…」
頬に伝う涙をそのままに、天窓からの景色を見ていたら…
そっと誰かに涙を指で拭われているような…そんな暖かな感覚が自分の頬をかるく触れていった。
それが誰だとしても…
「…だめだね…こんなんじゃ、心配…させちゃう…」
(還った後も心配させるようじゃ、君の器失格って言われちゃうよね…?)
「…ボクは…それだけ君の事………」
好きだったって事・・かな…?
今更気づいた自分の気持ちに…
自分の自覚の鈍さに対して、ほんの少しだけ笑えた気がした…。
「もっと…早く…気づけば良かった…よ…」
視界の風景が、ゆっくりと涙で滲んでいった…。
2006.1/1.3:00.a.m.
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015,ゆびさき