過去
私は最初、とある人の持ち物でした。
其の人を楽しませる事が役目でした。
其の人を楽しませる為だけに作られ
其の人の傍にいることが私の役目でした。
其の人は成長し、私では楽しませる事が出来なくなりました。
私は其の人にとって要らない物になりました。
私の居場所は其処から消えました。
私は其処から消えました。
次の私の場所は、物を売る場所でした。
私も売り物と成りました。
使い古された私を買う人は誰も居ませんでした。
通る人々は皆、私を少し弄っては嘲笑し、去って行きました。
然し、其処に飾られ続けていた私を買おうとする人が
只一人だけ居ました。
彼は優しい言葉を使う人でした。
私は彼に、買われていくことにしました。
けれど
彼に優しい言葉を囁かれ
例え其の言葉を信じたとしても
其れは私を買う為の言葉
其れは私を飼う為の嘘
信じる訳にはいかないのです。
どんな愛も信じたくは無いのです。
私が次に置かれる事になった場所は
真っ白な部屋でした。
其の部屋にはクローゼットとベッドがありました。
私が初めて此処に来た次の日
彼は沢山の服を買ってきました。
ご馳走と、ケーキも持ってきました。
私が来た記念なのだと。
更に次の日
ドレッサーも買って来ました。
私に着て欲しい服が沢山あるからと。
私を買った彼は
私にとても優しくしてくれました。
私にとても愛しそうに触れました。
私を買った金が
私をもっと汚したと云う事実を
彼は気付いているのでしょうか。
其れとも気付いているから
優しく笑うのでしょうか。
訊けば良かった。
優しい貴方なら
きっと
答えてくれただろうに。
今後悔しても
遅い。
私の次の居場所は在りません。
最後に居たあの部屋だけが
私の居場所でした。
新しく用意された部屋には
真っ白なベットと
同じ服ばかり並べられた
真っ白なクローゼット。
清潔な部屋には
彼の物は無く
此処で囁かれる言葉は
同情でしか無く
何が欲しいと訊ねられても
云える筈など無く。
早く・・・
戻らなくちゃ、あの場所に。
アノ子が待ってる。
アタシといつも一緒にいてくれた
アノ子が待ってる。
アノ人も大切にしてたアノ子。