部屋には何人?


今日はアノ人が少しだけ来るのが遅い日。
仕事が忙しいみたい。

「今日はいつもより独りの時間が長いわ・・・」

アノ子がベットに大の字で寝たまま呟いた。
アタシがいるのに。

「あ、違ったわ、アナタがいるものね」

少しだけこっちに顔を傾けてアノ子は言う。
本当に不思議よね。

「アノ人、来るかしら?」

来るに決まってるじゃないの。

「そうね、来るわよね」

・・・・・・
そうよ来るわよ。

「・・・だって約束をしたんだもの」

約束?

「取引きよ」

取引?

「『モノ』になる取引き」

・・・・・・

「それがどういうことか、分かってたクセに」

・・・またそういう顔をするのね。
だったら云えばいいじゃないの。

「アタシだって分かってたの。分かってるのよ」

じゃあどうして云わないの?

「アノ人が言ったんだもの」

何を?

・・・・・・

「しょうがないじゃない。時間が無いんだもの」

でも、約束ならアタシもしたわ。

「知らないフリを、許してね・・・」

アノ人と約束したのよ。

 

トントン。

 

あ、来た。

アノ子は珍しく、自分から扉を開けに走った。
でも、いつもみたいな無表情で出迎えた。

「遅くなってごめんね?」

「たまには服ばかりじゃなくて、本も買ってくれないかしら?」

「でも、君が本を読み始めたら独りぼっちになるじゃないか」

「・・・・・・そうね」

 

 

・・・そうよね。

 

 

 

 

この頃のアタシは、アノ人のことも、アノ子のことも、
訊ねる方法がなかったから

何も知らないまま、
アタシは、何もできないまま、
あんな終わり方を眺めるだけで終わってしまった。
アノ人との約束が守れなかった。

思い切り泣きたかった。
泣き叫んで、止めたかった。
「行かないで」って。

何が起こっても、私だけは連れて行ってって


まだこの部屋は、アノ人からの贈り物で鮮やかよ。

 

 

 

飾られてる人形は、今でも、アタシだけ。

 

 

 

もう一人の人形は、もうここにはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ―お願いだから戻ってきて。