恋人(仮)
アタシは人形。
ちょっと薄汚れてはいるけど
この笑顔を曇らしたことは1度も無いのよ。
アタシは今、とても柔らかいベッドに座っているの。
今まではオンボロ雑貨屋にいたんだけどね
もう永遠にあのままかと思っていたんだけれどね
アノ人が私を拾ってくれたの。
アノ人の名前は知らない。彼女には「アナタ」と呼ばれているから。
アノ人には恋人がいる。
いつも沢山の袋を抱えてこの部屋にやってくる。
それの中身はいつもプレゼントばかり。
この部屋で私をときどきいじっては笑う女の子への。
女の子の名前は知らない。アノ人には「君」と呼ばれているから。
でもときどきアノ人は女の子のことを「天使」と呼ぶの。
「何も知らないから」なんですって。
「何も持ってないから」なんですって。
アタシは天使なんて見たこと無いからよく分からないけど。
毎日アノ人はプレゼントを持ってくる。
毎日アノ子はプレゼントを捨てている。
毎日、毎日、毎日・・・
雑貨屋に飾られていた頃とあまり変わらない毎日。
だけどね、アタシはここが楽しい。
アノ人の笑う顔はアタシなんかよりもとても可愛いの。
アノ子だって話し掛けてきてくれる・・・。
でも気になることがある。
アノ人とアノ子は好き合っていると思うの。
だけどアノ人もアノ子もそれを知らない。
何度も触れ合っているのに気持ちを知らないの。
アタシは揺れるベッドの上でいつもそんな不思議な二人を見てた。