アマイセイカツalice.ver今日はちょっとした知り合いの結婚式だった。 「有栖川さん?」 すれ違いざまに声を掛けられた私はその声のする方へ振り返った。 「やっぱり、有栖川さん。」 整った顔に笑顔を浮かべた声の主が近づいてきた。 「森下・・・くん?」 それは大阪府警捜査一課の森下恵一刑事だった。 「いやあ、花束持った可愛い人が歩いてるなぁって思って良く見たら 有栖川さんだったんで驚いて声掛けちゃいました。」 「可愛い・・・って、なんやのそれ。」 私は手に持った花束で森下くんの頭を軽く叩いた。 「スーツ姿なんて珍しいですね?どこかに行かれたんですか?」 「ああ、知り合いの結婚式やったん。」 首元にあるネクタイに私は軽く触って笑った。 森下くんはそんな私につられるかのように微笑んだ。 そしてきょろっと周りを見渡し、何かを見つけたのか私の腕を掴み歩いていく。 「なっ、なん?どこに行くんや!?」 驚いて私が聞くと森下くんはにっこりとして 「有栖川さんとバッタリ会うやなんて、珍しいやないですか?ちょっとお茶していきましょうよ!」 「お茶って・・・、ナンパかい?」 私が言うと森下くんは声を出して笑って、喫茶店へ私の腕を掴んだまま入っていった。 注文した珈琲が運ばれてきてお互い一息つくと、森下くんが話し出した。 「有栖川さん、結婚式はいかがでした?」 「う〜ん、良い式やったよ。花嫁さんも綺麗やったしな。」 私は初々しさの残るまだ若い花嫁のドレス姿を思い出しながら答えた。 「有栖川さんも・・・結婚したくなったんやないですか?」 森下くんは悪戯っぽい瞳をして私を見ている。 「いやぁ〜、結婚となるとちょっと考えるなぁ。」 「なんでですか?」 「やっぱり、他人と暮らすって大変やない?いくら好き同士でも育ってきた環境も価値観も違って 来るわけやし、かなりの努力と我慢と妥協が必要やろ。それに・・・。」 一息つく為に珈琲を一口飲む。 「それに?」 言葉の続きを森下くんがそれとなく促してしてきた。 「それに、相手もいないし・・・ね。」 私は軽く片目を瞑って答えた。 すると森下くんはちょっと不思議そうな顔をして私を見て、少し考えてから口を開いた。 「・・・火村先生は?」 森下くんの言葉に思わず珈琲を噴出しそうになってしまったのを、なんとか留めた。 「なっ、何ゆうてんねん!?けっ、結婚の話してたんやろ!?」 「あはは、すみません。でも有栖川さんと火村先生ってお付き合い長いやないですか?お互いの部屋 も行き来してるし、泊まりもある。一緒に暮らそうと思われた事とかないんですか?」 冗談めいた口調の中に、真面目な口調も混じっているようだ。 私は軽く息を吐く。そして少しだけ困ってしまった。 ・・・火村と暮らす・・・実は考えた事は多少なりとも私のほうはあった。 しかし、どう考えても無理がある。火村には私と暮らすことは不可能に近いものがある。 「有栖川さ・・・ん?すみません。変なことを聞いてしまったみたいで。」 黙ってしまった私をみて森下くんが謝ってきた。私が気分を悪くしたと思ったらしい。 私は慌てて意識を浮上させた。 「いや、違うんや。別に怒ってるわけでもないねん。火村と暮らすことは実は考えたことはあるんよ。」 森下くんはちょっと驚いたように私を見た。 「でも・・・ね、やっぱりダメや。火村には無理や。」 すっかり冷めてしまった珈琲を私は一気に飲み干す。 「有栖川さん。」 森下くんが私を見る。 「・・・俺にも無理や。今のままがお互い一番良いんや。火村に対して妥協も我慢もしたくないから。」 私は少しだけ笑った。森下くんも笑う。 「森下くんは?結婚は?」 聞くと森下くんはちょっと考えて口をひらく。 「僕も・・無理です。結婚も・・・暮らすことも。」 森下くんはちょっと顔を俯きがちにして微笑んだ。 「どうも、様子が変やと思ったらなんかあったんやな?あの人と・・・な?」 カレはくしゃっと泣き笑いのような顔をした。 「お互い、甘い生活を夢みるにはちょっと苦い選択をしてもうたな。」 私は完全に俯いてしまった森下くんの頭を軽く撫ぜてやった。 喫茶店を出て私は森下くんと別れた。 駅に向かって歩いていると携帯のメールの受信音が鳴った。 「イマカライク。H。」 「えっ、急いで帰らな!」 メールを見て思わず走り出そうとした自分に私は笑いがこみ上げてきた。 「なんや、ずいぶんとアマイセイカツしてるやん。」 私は駅に向かって走り出し、さっき別れた森下くんのことを考えた。 (大丈夫や、俺たちは俺たちなりのアマイセイカツをしとるみたいや。いろんな常識に縛られること なんかないんや。後で電話・・・は邪魔やといけないからメールしとこ。) 私は携帯をポケットにしまうと火村の待つ部屋に向かって思いを飛ばした。 2002/07/28 aki 最初に考えてたのとちょっと違ってしまった・・・。 次は火村seid・・・の予定。 そのあとは・・・あの人かしら!? |