和紙産地をたずねて(福井県今立町:ふくいけんいまだてちょう


 2000.11.22(水)
 仕事で担当している講座の生徒さん達を連れて越前和紙見学に出かけました。団体行動でしたので、ごく一部しか見ることができませんでしたが、福井県和紙工業協同組合の皆様の案内により充実した一時を過ごすことができました。
 午前10時10分、組合事務所に到着、河野事務局長の先導で紙祖神「川上御前」を祀る神岡太神社(おかもとじんじゃ)の里宮、大滝神社を参拝しました。いよいよ越前和紙の産地の探検です。

大滝神社
大滝神社(おおたきじんじゃ)は国の重要文化財に指定されています。
本殿屋根の造りに特徴があります。
【紙祖伝説】

 今からおよそ1500年前に、この地を流れる岡太川の上流に絶世の美女が現れ、村人に紙すきを教えたと伝えられています。この姫を「川上御前(かわかみごぜ)」とあがめ岡太神社を建立し、紙祖神としてお祀りしています。
 これは、日本でもっとも古い時代に紙すきが始められた伝説で、日本書紀の製紙起源説よりおよそ100年古いものです。現在も大滝地区では盛大なお祭りをし、川上御前に感謝しています。


 紙すきを教えてくれた「川上御前(かわかみごぜ)」をおまつりしています。
 およそ1500年前から紙すきがおこなわれていたと言われています。

墨流し(すみながし):福田忠雄(ふくたただお)さん
福井県指定無形文化財(ふくいけんしていむけいぶんかざい)
福田忠雄さん
福田忠雄さん(ふくたただおさん)と墨流し和紙


動画で見る墨流し波立たせる写し取るところ

福田忠雄さん

 水面に墨とテレピン油で年輪のような模様を作ります。時には青や赤の色を混ぜながら美しい模様を作ります。100回ほど墨を流したら、団扇や息で空気の流れをつくり水面をゆらします。その揺れによって墨は微妙に形を変えます。


 水に黒・赤・青などの色をうかべてもようを作ります。これを墨流し(すみながし)と言います。

墨流しをした和紙
墨流しをした和紙

越前奉書紙(えちぜんほうしょし):九代岩野市兵衛(いわのいちべえ)さん
国指定重要無形文化財(人間国宝)
【九代岩野市兵衛さん】

 九代岩野市兵衛さんは、現在和紙で唯一の人間国宝です。先代も和紙で最初の人間国宝でした。市兵衛さんのつくる和紙は、主に版画に使われます。紙質には大変厳しく原料処理工程からいっさい妥協を許しません。 お人柄も大変よく、私たちの訪問を歓迎してくださいました。


 人間国宝の九代岩野市兵衛(いわの いちべえ)さんです。越前奉書紙(えちぜんほうしょし)という版画用の和紙をすいています。

第九代岩野市兵さん
九代岩野市兵衛(いわの いちべえ)さん

越前奉書紙
越前奉書紙えちぜんほうしょし)
写真にある黒っぽい点は紙ではありません。よごれです。

【ネリのこだわり】

 良い和紙を漉くためにトロロ(越前ではネリという)にも工夫があります。ふつうはトロロアオイだけを使いますが、岩野さんはトロロアオイとノリウツギを混ぜています。ノリウツギを混ぜた方がトロロアオイだけよりも繊維ののびが良く、作業効率も良いそうです。
 また、トロロの色にも注意を払います。


 トロロアオイとノリウツギを混ぜた方が良い和紙がすけるということです。

ネリ
トロロアオイとノリウツギを混ぜています
トロロ
トロロ(ネリ)

越前打ち雲紙(えちぜんうちぐも):三代岩野平三郎(いわのへいざぶろう)さん
福井県指定無形文化財(ふくいけんしていむけいぶんかざい)
第三代岩野平三郎さん
三代岩野平三郎(いわのへいざぶろう)さん
岩野平三郎製紙所



 この製紙所は従業員約50人を誇る日本で最大級の和紙工房です。初代岩野平三郎氏は越前一の名工といわれ、横山大観をはじめとする近代日本画家に和紙を供給していました。
 三代平三郎さんはその技術を受け継ぎ、麻紙やガンピ紙などを漉いています。また、打ち雲紙などの卓越した技術を保持し、平安時代からの料紙装飾技術を伝えています。

 三代岩野平三郎さんは、日本画用の和紙や雲のような模様をつけた和紙をすいています。作業場が広いのでとても大きな和紙もすいています。

打ち雲紙
打ち雲紙(うちぐもがみ)

施 設 紹 介
和紙の里会館
和紙の里会館
 越前和紙の歴史や作り方などをわかりやすく紹介する博物館です。今立の産地を訪問する前に必ず見学しましょう。
 入館料は、和紙の里会館・パピルス館・卯立の工芸館共通
  大  人300円
  小中学生100円
パピルス館
パピルス館
 気軽に紙すきを体験することができます。
押し花をすき込んだハガキや色紙、コースター。墨流しも体験できます。お土産も売っています。
 紙すき体験は500円から
卯立の工芸館
卯立の工芸館
 越前和紙職人さんの技を見学できます。建物は寛延元年(1748)に創建された家屋を移築しました。2階はギャラリーになっています。
いまだて芸術館
 今立では「現代美術今立紙展」という公募展を開催し、海外からも多くの出品があるまでに成長しました。その展覧会の会場となります。また、隔年で開催される「アートキャンプ」の会場にもなります。 今回の訪問ではアートキャンプを見ることができました。
 今立町は越前和紙の産地として有名です。越前和紙の歴史は古く、冒頭にも書いたように西暦500年頃に始められたと伝えられています。この伝説をそのまま信じることはできませんが、奈良時代には中男作物(税の一種)として紙を納めていました。
 平安時代には「打ち雲」「飛雲」といった装飾を施したガンピ紙が貴族に愛用され、西本願寺本三六人集に代表される「継ぎ色紙」の料紙となりました。
 鎌倉時代以降の武家社会では「檀紙」「奉書紙」などのコウゾ紙が使われましたが、越前はこれらの最も優れた産地としてその地位を確立しました。
 江戸時代後半になると、ミツマタを原料とした藩札が作られ、明治時代にはその技術を生かして日本の紙幣が作られました。また、証券用紙や紙幣に使われる「透かし」技術も発達しました。
 近代では、平安時代から伝わる「漉き込み(紙に模様を付ける技術)」の技法を発展させ、襖紙などの美術紙も生産するようになりました。 そして、近年では紙を漉くだけでなく、紙の文化発展に力を入れ「現代美術今立紙展」「アートキャンプ」などの現代美術に貢献しています。
 今回は3名を紹介しただけですが、今立には約80の製紙業者があり日本の和紙をリードしています。

地図
越前和紙のエリアへは北陸自動車道武生インターから約10分でした

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